視点

生成AIソフトとACCSの活動

2023/07/26 09:00

週刊BCN 2023年07月24日vol.1978掲載

 AIと著作権について、文化庁が現状を整理した文書を公開した。AIの開発・学習段階と、生成・利用段階に分けて、それぞれ著作権侵害の判断が簡潔に記されている。これによると、AIで生成した画像などをアップロードしたり複製物を販売したりする行為は通常の著作権侵害と同様だし、既存の著作物と類似性があり依拠性があれば刑事罰の対象になる。常識的な内容だが、興味があれば調べてみてほしい。

 昨今は「ChatGPT」の業務利用も聞くし、大学での利用を制限するといった議論もある。ただ、そういった著作権侵害の可能性や教育効果といった内容を超えて、AIを使った文章や画像の創作をどう考え、どう捉えればいいのだろうか。私は、青山学院大学の河島茂生・准教授とともに、深く考察したことがある。

 その成果は『AI×クリエイティビティ 情報と生命とテクノロジーと。』(高陵社書店)にまとめている。2019年の発行だ。最近は、山口大学で行った授業でこの本を配り、読んでもらった上で学生と議論した。

 この本には今年亡くなった漫画家、松本零士さんのインタビューも掲載されている。「創作は体験に根ざす」という松本さんの言葉が著作物の本質を表している。本の帯にも「創作は生命情報を源泉とする」という松本さんの言葉がある。

 ChatGPTは、膨大な既存の著作物を取り込んで新たに生成して文書を提示してくれるものだと理解しているが、だとすれば、それは二次情報であり、三次情報かもしれない。でも、この25年の間に発展したWebにある情報にも二次情報がある。それは誰かの体験であって、自分の体験ではない。

 学生と議論すると、人の琴線に触れるパワーのある言葉や表現は、自分の体験から出てくるものだと彼らは本能的に知っているように思う。それが松本さんの言う創作の本質だ。だとすれば、Webの二次情報であれChatGPTであれ、その情報を基に自らが体験しようと行動する契機になれば、それでいいのではないか。学生たちが創作の本質を理解しているのなら、AIはツールに過ぎないと肯定できる。

 なお、『AI×クリエイティビティ』は絶版になったが電子書籍で再販されることが決まっている。オンデマンド印刷も可能になるらしい。興味があればぜひ読んでみてほしい。コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)でもAIに関するセミナーの開催を検討している。

 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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